事例紹介 住友金属鉱山
クリエイティブの力で素材の新規用途開発拡大を支援
良い製品を作れば売れる、そして売れ続ける。これはいつの時代でも変わらぬ真理だろう。しかし、現代のビジネスでは、(a)「良い製品を作る」と(b)「売れる・売れ続ける」の間には、様々な要素が複雑に絡み合う。この「絡まり」を正しく見定め、クリエイティブな視点と確固たる戦略で(a)と(b)を等しくする住友金属鉱山の取り組みを、アクセンチュアは支援している。
5分(読了目安時間)
事例紹介 住友金属鉱山
良い製品を作れば売れる、そして売れ続ける。これはいつの時代でも変わらぬ真理だろう。しかし、現代のビジネスでは、(a)「良い製品を作る」と(b)「売れる・売れ続ける」の間には、様々な要素が複雑に絡み合う。この「絡まり」を正しく見定め、クリエイティブな視点と確固たる戦略で(a)と(b)を等しくする住友金属鉱山の取り組みを、アクセンチュアは支援している。
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その素材、可能性は無限大。それをどう伝えていくのか。
430年以上の歴史を持つ住友金属鉱山は、鉱山開発・運営を行う資源事業、高品質な金属素材を生み出す製錬事業、そして素材の価値を創造し付加する材料事業を推進している。これらの事業の一貫した連携を強みに、その時代に即した様々な「良い製品」を生み出してきた。その一つに、2004年に独自開発された先端材料、近赤外線を吸収するナノ粒子「CWO®」がある。
CWO®は、近赤外線を吸収し熱に変換する特性により、発熱効果や遮熱効果を得ることができる。さらに、ごく少量で効果を発揮することで高い透明性を保てる特異な素材で、アパレルや農業など様々な用途に展開できる可能性を秘めていた。この素材を知った人々は、その可能性に魅せられ、実証実験から製品化までいろいろなアプローチを重ねていた。例えば、素材の持つ高い透明性を保ちながら遮熱効果を得るという特性を活かした、窓ガラス向けのフィルムなどへの適用である。
「いろいろな事業と材料がある中で、素材として大事なのは、汎用性と共通性。これが事業シナジーにつながります。その先に市場があり、その相性も必要。重要なのは、それらが合うところを見つけることで、そのためにX-miningというデジタルマーケティングプラットフォームとなるプロジェクトを立ち上げいろいろな取り組みを進めてきました」(住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 イノベーション戦略統括部長 東福 淳司氏)。
しかし、その他の領域でいくつかのパートナーとの取り組みが進んだものの、なかなか大規模な事業化には至ることがないまま、CWO®の特許がまもなく失効するという時間的制約もあり、競合他社による廉価な代替品の登場が現実味を帯びていた。その様な状況で、強力なブランディング施策が必要と判断されていたが、イメージ戦略が先行しがちな従来の枠組みを超えた、新たなブランディングアプローチを模索する必要に迫られていた。
「素材の新規用途開拓からの事業新規開発という視点で、CWO®という素材が、その一つのモデルケースになるのでは、と。この素材の良さをうまく伝えられれば、かなり勝算が高いとも思っていました」(住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 イノベーション戦略統括部 事業化推進グループ 戦略企画チーム チームリーダー 石橋 佳祐氏)。
イメージだけではない。素材が拓く未来を見せるために。
CWO®という素材の持つ大きな可能性を魅せる。この素材が拓くだろう世界と未来を見せるため、専門家だけでなく、幅広い層に対し、見える、感じられる、触れられるものにする。そのためのパーパス~存在意義と価値を定め、ブランディングを事業成長の基盤にする。これらを打ち出し、住友金属鉱山からこの可能性あふれる素材のブランディング戦略のパートナーとして選ばれたのが、アクセンチュア SONG本部 Droga5だ。
「コンペの事前段階から、このプロジェクトの課題~”リアリティのあるもやもや”を提示していただいた感覚があります。これはとても新鮮で、そこから私達もやるべきことを明確に自分事化できた」(アクセンチュア株式会社 Droga5 Tokyo, Part of Accenture Song クリエイティブ・ディレクター 大塚 智)。
「自分たちに専門的な技術や知識が足りなくても、そこはプロと組めばよい。そのプロを選ぶ際のポイントはアウトプットの質が高いことは前提として他に2つあって、1つはちゃんとコミュニケーションを取ってくれるか、そしてもう1つは熱意があるかどうかです」(石橋氏)。
「正直言うと、私はもともといわゆる”コンサル“には懐疑的でした。でも、アクセンチュアから感じたのは”愛”。CWO®という素材を愛してくれたアクセンチュアは、我々の真のパートナーです」(東福氏)。
両社のコラボレーションにおいて、CWO®の再定義に向け、ターゲット層の明確化、未来洞察に基づく人や社会・産業が直面する課題の読み解き、アプローチすべきブランドの選定に向けた市場調査等が実施され、業界ごとに最適化された戦略が策定されていった。その過程で、生み出されたのがSOLAMENT®(ソーラー/太陽+エレメント/要素。また「空」も連想させる)と名付けられたブランド名であり、コンシューマー向け製品プロトタイプであるDOWN-LESS DOWN JACKETだ。
SOLAMENT®を使用した透明な素材で作られたジャケットは、太陽光に含まれる近赤外線を吸収し発熱することで、暖かさが得られる。これは、SOLAMENT®の実用性だけでなく、ダウン素材等の断熱材を使わないという倫理や環境の課題に対する効果も期待させてくれるものだ。
「DOWN-LESS DOWN JACKETは、誰が見てもインパクトがある反面、誰が見ても”不思議”。紙上のアイディアだけの段階で構想やコスト、人員についてどのぐらいかけるかの判断はとても難しい。でも、住友金属鉱山の皆さんの判断は非常に早かった。皆さんの中でブランディングだけでなく、この素材が社会にどう役に立つのか、そして次に何をすべきか、それらの意思がはっきり決まっていたのが大きかったと思います」(大塚)。
このDOWN-LESS DOWN JACKETを中心に据えた、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト。毎年米国で開催される世界最大級のイノベーションの祭典)に代表される国際展示会での発表、インタラクティブな体験設計、主なデザイン賞への応募等、包括的なプロモーション戦略を立て、確実に実践を続けていった。
「あのタイミングで、DOWN-LESS DOWN JACKETという形で出せなかったら、SOLAMENT®のブランド構築は相当遅れていたと思います」(東福氏)。
ブランド認知と事業拡大、第一段階達成。そして次へ。
SOLAMENT®ブランドのローンチは、世界中のメディアに取り上げられ、大きな注目を集めることになった。また、レッドドット・デザイン賞やクリオ賞、グッドデザイン賞等も受賞し、グローバルな評価も確立している。
ビジネス領域においては、フランスのアウトドアブランドや日本のスポーツブランド等、複数のブランドが同素材を用いたアパレル製品の開発に着手するなど、事業化が加速しており、ビジネスリード獲得数を以前の数倍以上に押し上げるという快挙も成し遂げ、新たな事業機会を創出し続けている。
このプロジェクト以前は、アパレル業界での素材に関する問い合わせは年に1~2件でしたが、今は週1~2件あり、それが1年間ずっと続いています。製品の存在意義や事業としてどうあるべきかを考え、「売れ続ける仕組みを作ること」が本当のブランディングだと、このプロジェクトを通してわかりました。ここから元々の目的である新規用途開拓を進め、利益を上げ、事業化していく。それを高速スピードで進めていきたいですね。
石橋 佳祐氏 / 住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 イノベーション戦略統括部 事業化推進グループ 戦略企画チーム チームリーダー
これらの成功を背景に、このチームが次に本格的に手掛けるのが、農業分野と水資源に関する社会課題解決につながる取り組みだ。SOLAMENT®の特性のひとつである「光合成に必要な可視光線は透過し、近赤外線を遮断する」性質を活用した農業用の遮熱ネット(SOLAMENT AgriCool Shade®)などの活用によって、地球沸騰化時代に再び農業を豊かなものするプロジェクト「ReFarm by SOLAMENT®」を立ち上げた。また、海水や汚水を太陽光で熱し蒸発させて蒸留水を得る装置(Solar-smart Water)のプロトタイプ開発も含め、持続可能性への貢献と共に、さらなるビジネス領域の拡大を進めている。
今、企業の投資ルールも変化し、早いリターンが要求されます。SOLAMENT®としては、まずB2Cで市場を刺激し認知を得、次の段階として大きなソリューションを見出し、ボリュームゾーンを取るべく事業性を見極める、その検証を進めます。その一つが農業。素材を開発した自分たちが、使う人たちの精神面まで考慮しその利益を考える。それが真のベネフィットであると、アクセンチュアとの協業を通じて実感しています。
東福 淳司氏 / 住友金属鉱山株式会社 機能性材料事業本部 イノベーション戦略統括部長
「事業開発とブランド開発を分けて考えるのではなく、両者がしっかりと結びついている、この状態を理想とすることが共通認識だと思っています。製品や技術の存在意義を明確にし、世の中に実際に働きかけ、そこにいろんなパートナーを巻き込んでいく。今、その足掛かりは掴めている。これからもワクワクする状態が続いて行くと思います」(大塚)。
「私たちのご支援の最終目標は、やはり利益貢献です。素材を製品化するというと、どうしても”原料+利益”という発想が基本になってしまう。そうではなく、製品の価値を明確にし、例えばプライシングにも反映させる、そういった部分も含め、これからもしっかり伴走させていただきたいと思っています」(アクセンチュア株式会社 素材・エネルギー本部 マネジング・ディレクター 近藤 大和)。
住友金属鉱山のその伝統に裏打ちされた、材料に関する深い専門知識から生み出される「良い製品作り」は、アクセンチュアの持つクリエイティブな視点を実際のビジネスにつなげる知見と豊富な経験により、これからもさらに「売れる・売れ続ける」ことにつながっていく。
(左から)住友金属鉱山株式会社 石橋氏、東福氏、アクセンチュア 大塚、近藤