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事例紹介 出光興産

出光興産:AI活用によるタンクローリー配車計画作業の高度化実現を支援

急速に変化する物流情勢の中で、エネルギーの安全・安定供給と物流効率化の両立を目指し、DXを推進する出光興産。燃料油輸送管理プラットフォーム構築に続き、AIと数理最適化モデルを活用した配車計画作成システム構築を実現し、テクノロジーの利活用による物流改革にいち早く取り組んでいる。アクセンチュアは、ユーザーに寄り添いながらこの2つの取り組みを支援している。

5 分(読了目安時間)

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エネルギー安定供給の要「物流」、そのDX第1章

皆で常に共通の基盤を使って仕事ができる環境を構築

エネルギーの安全・安定供給を使命に、生活者のニーズに対し、真摯に、そして革新的な姿勢で取り組んできた出光興産。2030年ビジョンとして「責任ある変革者」を掲げ、それを支える3つの柱のひとつに「ビジネスプラットフォームの進化」を挙げている。その中心となるのがDX戦略であり、特にDXの高度な利用による生産性の向上と新たなる価値創出を目指している。

その流れの中で、早くから取り組まれてきたのが燃料油の物流改革だ。日本全国津々浦々にいるエンドユーザーにエネルギーを届けるためのインフラは、製品製造から保管管理に係る設備、配送用のタンクローリー等の資産と、それらを運用する数多くの人々の手で成り立っている。

「化石燃料主体のエネルギーについては、脱炭素の視点に加え、人口減からの需要減も予測されており、当社でも対応すべくいろいろな取り組みをしています。それでも石油製品は当社の主力事業であるとともに、例えば災害時などの際にスポットがあたるように、ライフラインとして維持が欠かせないものでもあり、その安定供給において陸上物流は重要です」(出光興産株式会社 流通業務部長 岡﨑 淳子氏)。

その陸上輸送におけるDXの第一弾となったのが、2021年始動の輸送管理プラットフォームだ。「ラスト1マイル」を担うタンクローリーによる輸配送は、100を超える運送会社によって担われており、ユーザーの様々なデジタル環境での運用を荷主が可能とする仕組みや、デジタルデバイスを活用するにあたり、危険物とされる石油製品を扱うための法令に対する許認可確認等、前例のない中でのシステム構築となった。

「物流の資産効率を悪化させないようにデジタルを活用し、協力会社と共に”常にひとつの場所を見て仕事をする”、そういうやりとりの場所をプラットフォーム化しました」(出光興産株式会社 流通業務部 受注配送管理センター 配送課長 友野 寛氏)。

大事な物流インフラの「要」を長年担ってきた陸上輸送ですが、燃料油の需要減の鈍化傾向があっても、それ以上に担い手が不足しています。様々な要素の変曲点があり、長期視点の見通しは不透明な中、この状況をデジタルがどう解決できるのか、と。物流すべてをDXし、人とうまく融合する仕組みの構築を進めたい。システムは構築し本当に活用できるまでかなり時間がかかりますから、できる限り早く着手すべきだと思っています。

岡﨑 淳子氏 / 出光興産株式会社 流通業務部長

DXで働き方もトランスフォーメーション可能に

輸送管理プラットフォームに続く、出光の物流DX第2弾として取り組まれたのが、タンクローリー配車計画立案の効率化だ。ここでのポイントは、単なる効率化だけではなく、今ある業務の高度化であり、担当者の働き方改革をも視野に入れたものであることである。

「配車計画という業務は、暗黙知のようなあいまいな判断を含む領域で、ここをDX化することにより経験を持つ人だけでなくとも対応できるようにする。そこから働き方のトランスフォーメーションに繋げてほしかったんです」(友野氏)。

この取り組みで、人は、そしてデジタルは、お互いどのように融合を目指し、その業務の高度化を実践できたのだろうか。

課題-求める変化

複数要素が絡み合う専門性の高い業務

出光興産では、年間約3,500万KLもの燃料油を国内約6,000のサービスステーション(以下、SS)と数千の需要家へ販売・配送している。それは、1日ごとの各オーダーに対し、最も無駄のない方法で確実に必要な燃料油を届けるよう、約70名の配車担当が日々手作業で計画を立て、この仕組みを支えてきていた。

具体的な作業としては、委託された各SSの商品別在庫量と目下の需要に合わせたオーダー作成作業、及びタンクローリーの稼働車両台数とそれぞれの積載量に対し、顧客の要望するオーダーを組み合わせた配送ルートを、積載する油種を含む複数の条件を組み合わせて作成する配車作業だ。加えて、在庫量は常に変動する上に、先を読む必要があり、配送ルートにしても当日の道路状況までをも加味し最適ルートを導き出す必要がある。

配車計画立案は、このような複数の要素が複雑に関連する中で、1日当たり最大約5,000件のオーダーに対して最大時で1,800台のタンクローリーに対する「計画」をまとめるという非常に専門性の高い業務であり、これまで個人による成果のばらつきと、立案決定まで多くの時間がかかることが大きな課題となっていた。

加えて、「物流の2024年問題」の流れの中での担い手不足もあり、これらの課題への対応の緊急性は高まっていた。

取り組み-技術と人間の創意工夫

AIと人が融合するものを作る

「もともとあった配車システムのUIを使いながら、その中にAIをビルドインするという、あまり他では考えないような手法を使っています」(友野氏)。

今回の取り組みは、熟練担当者がどのように配車計画の質を担保し、日々変化する環境下でいかに複雑で膨大な輸送ルート・配車の組み合わせ実現しているのか理解するところから始まった。そこから、業務プロセスを3つに分け、それぞれにおいてデータとAIを活用し、分析を進めていったのだ。そして、その分析を元に、各プロセスでの「予測モデル・数理最適化モデル」を構築し、その実装を行った。

配車計画作成システムaIDEMに組み込まれた3つのモデル

需要予測モデル

過去10年分の配車計画とその実践データ、各SSの販売傾向を機械学習させ、それを元にAIが各SS、油種ごとの需要を予測するモデルを確立。推定値変換には、季節や曜日等の変動条件も含まれている。

計画配車立案モデル

各SSの販売量と在庫状態、その日の稼働車両台数、移動のための所要時間、および車両ごとの多様な積載量を考慮し、各SSで「在庫切れ・在庫超過しない」前提での納入量を決定するモデルを確立。

配車最適化モデル

各種条件を考慮し、効率的な配送ルートとタンクローリーの組み合わせた配送計画候補の提案から、AIが状況に応じた「目的」を関数化したものを加味し、一日分の最適な配送計画が立案されるモデルを確立。

また、この仕組みでは、AIがただ配車計画を出力するだけでなく、「今回、あえて”AIと人と融合するものを作る”というコンセプトを持ってやりました」(友野氏)との言葉通り、例えば、AIからの出力に対し、配車担当者が内容を確認し、部分採用したり、パラメータを変更して再作成したり、人の柔軟性を活かしながら精度高く計画を作り上げる機能も持っている。

この「人とAIが融合」するaIDEMの成功のカギは、プロジェクトマネジメントだという。

「アクセンチュアと一緒にやる意義を言葉にすれば、我々の現場を理解してどうシステムに落とし込めるか、また時として我々と考えが相反するとき、どう落としどころ見つけられるかだと思います。それができないと感じれば、プロジェクトも止めるべきですし、実際このプロジェクトも一度止めました。でも、今回のシステム構築を進めている中で、アクセンチュアの担当者はタンクローリーの運転ができる免許まで取ろうとしてくれている。そうやってお互いが理解し合って、同じ目線で進められれば、プロジェクトは絶対にうまくいくと思っていますし、実際に今回もそうでした」(友野氏)。

DX推進には、デジタルにしようとしているものを理解し、好きになるということが大事。輸送管理プラットフォーム構築の際は、アクセンチュアの担当者が乗務員の業務はもちろん、ローリーにも乗り込んでタブレットを置く位置も実際に確かめていた。そういう人から「使ってください」と言われれば、新しいものに前向きでなくても「使ってみよう」と思う。作る側がどの目線で仕事をするか、それがとても大事だと思っています。

友野 寛 氏 / 出光興産株式会社 流通業務部 受注配送管理センター 配送課長

成果-創出される価値

目指すのは、物流の「フルDX」

今回の取り組みにより、ボタンクリックで作成できるようになった配車計画案。これにより、「配車計画の立案を複数回繰り返して、より最適な組み合わせパターンを創出する」という、これまでの業務を高度化した新しいプロセスが構築された。

また、出力された配車計画案に対し、システムのみでは把握しづらい配送先の個別事情について、配車担当者が考慮しながら確認・調整する仕組みを採用しており、担当者の経験や熟練度に左右されず、従来と同等以上の品質を維持した上で、配車計画作成にかかる時間を25%短縮することが可能となった。

aIDEMの全体イメージと成果

25%

AI活用の配車システム利用により削減が予想される配車計画作成時間の割合

aIDEMの全体イメージと成果

「AIが担う領域は、疑う余地なく、確実に今後も広がります。AIを使う領域、人が携わる領域は、どちらも今後変わっていくでしょう。どんな状況でも人材をしっかり活用できるよう、業務自体も変革しようとしています」(友野氏)。

「急速に変化する物流情勢の中で、安定供給と効率化を両立させながら、DXを取り入れていく。今後、脱炭素の流れから燃料油製品として扱う種類も増え、配送への対応はより複雑になっていくと思います。人の携わる部分がなくなることはないですが、デジタルで対応する部分はすべて、フルでDXする。その重要な施策でありエンジンとなる一つがaIDEMである、と。ただ、ユーザーエンドまで見ると、デジタルの浸透度には濃淡があります。今は、このシステムを使いこなしてもらうよう、しっかりと推進しつつ、改良やさらなる高度化に取り組んでいきたいですね」(岡﨑氏)。

輸送管理プラットフォームの構築と活用を実現した第1章、続く第2章としてAI配車計画作成システムを構築し、業務の高度化と作業時間の短縮を実現した出光興産の物流改革。それは、「人とデジタルの融合」をキーワードとして、常に「次」を見据え、推進されていく。アクセンチュアは、利用する人と常に同じ目線を持って、出光興産の取り組みを引き続きご支援していく。

出光興産aIDEMプロジェクトチーム
出光興産aIDEMプロジェクトチーム

(左から)出光興産株式会社 下垣氏、岡﨑氏、友野氏、アクセンチュア 井上

チーム紹介

柴田 尚之

執行役員 金融サービス本部 保険グループ アジア・パシフィック統括

劉 章震

ビジネス コンサルティング本部 データ&AIグループ プリンシパル・ディレクター

井上 怜

ビジネス コンサルティング本部 マネジャー

龍 玄之

ビジネス コンサルティング本部 データ&AIグループ マネジャー